2日連続で見たネコ
『夜もいるだろうか?』
帰宅時、家を通り過ぎると、
彼の姿が塀の上にぼんやりと見えた。
甘い声を出し、僕に体をよじりながら頭を突き出してくる。
飼い猫なんだろうか?
捨て猫なんだろうか?
彼をそのまま抱きしめて持ち帰っても、
何の抵抗もないかと勝手な想像をした。
『また、来るよ』
一時的な感情で、弱い他人の人生を壊すことがあるのが分かる気がした。
待ち合わせ場所に向かい吉祥寺サンロードを歩いたとき。
ふと露店から映る色に惹かれて立ち止まる。
急いでいたこともあり、失礼ながらあまり言葉を正確に終えていなかったのだが、
売りたい思いと箸への思いがどのようなバランスで成立しているのかは分からないが、
何かに目を移し、また触るごとに即座に心とともに流れ出る言葉より、
何かしらの強い思いがあることは伝わってきた。
足を止めたその色の箸を買うつもりであったが、
念のためと言えばよいのだろうか、ともかく目に留まった木の素の色を残す箸の説明を求めると、
色を塗り殺菌効果のあると言う買うつもりの箸の説明をしてくれた。
『卓遊楽』
生活を彩るお箸。
僕にはその箸の質は正直、理解も判断も出来なかったが、
食卓に身体を護るその鮮やかな色が並ぶのは悪くないと思った。
家族構成は正確にはよく分からないが、
お母さんがいて、男女の子供たちが3人ぐらいで、
普段は静かだがオリンピックとかそんなスポーツの大イベントがあると、
家族の歓声が聞こえてきた。
その声は例え夜中であったとしても、
とても柔らかく聞こえ、
知りもしないがとても好感の持てる家族が側にいるようで、
僕にとっていいお隣さんであった。
日曜日。
しばらく休みがない日々が続いていたが、
落ち着いたと言うか、あまりムキになって働く姿が迷惑がられたと言えば良いのか。
正確にはどう言えば良いのか分からないが、
その日は家にいた。
たまにお母さんが子供たちを叱る声が聞こえてくるのだが、
いつものようにその声が聞こえてきた。
「3日後には引っ越すというのに何も準備できてないじゃない」
毎日、早く帰るようになっていた。
引っ越し業者のトラックが止まり、
右へ左へユニフォームを着た男たちが荷物を部屋から持ち出していた。
妻によると、隣のお母さんは、業者が来ると何も準備できていないことをひたすら謝る声が聞こえてきたそうであるが、
何れにしても部屋にある荷物はトラックへとドンドンと積まれていき、
僕が帰る頃は既に最終段階であったようで、
しばらくすると恐らくは様子を見に来たアパートの隣人に別れを告げる声が聞こえ、
トラックの音と共に去って行った。
付き合いもないし、何の思い出もないのだが、
もう二度と彼らがテレビを見て家族で思わず同時に上げてしまう声やため息を
もう聞くことができないかと思うと、
残念であり、寂しい気持ちになってしまった。
今日は寿司屋が閉店した翌日であった。
渡し忘れたアンケートを持ち、
店の前に向かう。
お礼の言葉が書かれた紙が貼られており、
通りがかりの人が立ち止まり、物思いに耽る。
アンケートを紙とシャッターの間にねじ込んだ。
久しぶりに駅に程近い回転寿司屋に入る。
あまり高くなく、味もそこそこであり、
いま流行りのチェーン店よりも少し冴えない感じもあるが落ち着いた感じのところで、
家で食事を作るのが面倒な時に入店している。
やっぱりここは安くて味も悪くないしいいね、
と言いながら外に出る。
店のガラスの前に垂れ下がる簾に髪がかかっており、
どうやら今月で閉店となるそうである。
そこに書かれた文面がただしいのであれば、
町の再開発の煽りをうけ撤退することになったそうである。
再開発について、市の計画を見ると次のようなことが書いてある。
『現状の問題点:
魅力ある施設が少なく、他都市への購買層の流出が激しい。
整備課題:
魅力ある駅前地区にふさわしい各種施設の配置を検討する。
集客力のある店舗、専門店の誘致を検討する。』
正しいことを進めているのかもしれないが、
何かがなくなっていくのは寂しさもあり、
その気持ちと一緒に魅力ある何かも併せて捨てられ時に流され消えてなくなるのであろう。