冷麺の唐辛子のエキスの含まれた袋に書かれた字を見て、
これは幸せという字であるよね、と妻が尋ねてきた。
「いや、“辛い”という字だよ」
なるほど、今まで気がつかなかったがよく似ているんだね。
頭の中で、
「幸」という字のなぞり、辛いという字の一番に下に一本線を加えればいいんだ。
と字をなぞる。
いや、幸せという字がどんな字なのかよく分からなくなった。
取り出された紙を前に、
ペンを持った私が何度か書きつづるが
どうしても幸という字にはたどり着く様子は見られなかった。
「一番上に一本棒を引っ張ってみればいいんじゃないのか?」
そう言われて紙に書くと、
すでにその形状を失いつつある私の頭では、
どうもそのかたちが納得できるもののように見えた。
少々不安がありはしたものの、
そのような字の迷いは夏目漱石の小説にも出てきたし、
実際に私にも小さいころからよくあったので、
今日もそのようなことなのであったのであろうか。