安保法案について(2)

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■国の目指す場所

平和な世界の構築を考える上で、
重要なのは経済的な側面の充足であると思う。

『世界に広がる市場を如何に自国に都合の良い形に造りあげるか?』

自己本位に進むことはよくあることで、

他国を利用して経済的なヒエラルキーを作り上げること

これは、一般的に、よくアメリカ、ヨーロッパにある国家が、自分の役務としてきたことなのかもしれない。

平成27年4月29日/米国連邦議会上下両院合同会議における安倍内閣総理大臣演説で、
安倍首相は次のように述べている。

『こうして米国が、次いで日本が育てたものは、繁栄です。そして繁栄こそは、平和の苗床です。』

繁栄なしに平和はない、ということが、絶対的に正しいことなのかどうかは、私には分からない。

個人個人で求める生活水準は異なると思うが、
経済的な安定のない場所で、生活圏の平和が保たれている、ということがあまり無いということは、一般的な事象であると思う。

それでは、安倍政権は、平和の糧となる経済についてどのような方策を描いているのであろうか?

安倍政権が掲げる経済財政政策『アベノミクス』では、次の4つの視点をベースに、日本経済を持続的成長に導く道筋を示そうとしている。

 1.投資の促進
 「新しい事業にチャレンジ!!」
  大胆な規制・制度改革、思い切った投資減税等を行い、企業の投資を促し、
 民間活力を最大限引き出す

 2.人材の活躍強化
 「個性を活かして・みんなが活躍!」
  女性・若者・高齢者等、それぞれの人材がさらに活躍できる環境づくり

 3.新たな市場の創出
 「大きな課題は、大きなチャンス!」
  少子高齢化等の世界共通の課題にいち早く取り組む中で、新たな市場を創出し、「課題解決先進国」へ

 4.世界経済とのさらなる統合
 「世界の真ん中で輝く日本へ!」
  日本企業の世界進出や、日本への直接投資のさらなる拡大

引用元)「成長戦略」の基本的な考え方
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seichosenryaku/kihon.html

まずは、実体経済の成長より先行して、金融緩和を行い、企業がお金を使いやすくする環境を整えるとともに国が資金を投入し、
マネーフローが円滑化するためのきっかけを与える。
そして、これと並行して、ここで挙げた4つの指針をベースにした政策により実体経済の活性化を促す。

これが、アベノミクスであると思うが、
内容を確認して分かることは、4つの全ての指針に関わる投資・人材・市場・インフラといった重要な要素を、
世界と連携して成熟させていくことを想定している、ということである。

ここでは、少しその例を挙げてみることにする。

★クールジャパン

 日本の魅力を発信して、海外では日本発のコンテンツを売り上げ、
 外国人を日本に呼び込み消費を促そう、という経済政策である。

 参考)クールジャパン政策について 平成27年8月 経済産業省商務情報政策局 生活文化創造産業課
  http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/150817CJseisakunitsuiteAugust.pdf

★少子高齢化とアベノミクス

 ▶︎本格的な人口減少社会の到来
  ・総人口は、2050年では1億人、2100年には5千万人を割り込むまでに減少。

 ▶︎高齢化の急速な進展
 ・全国の80歳以上人口割合は、2050年は、2010年と比較すると、6.4%→16.5%へ。

 参考)国土形成計画(全国計画) 参考データ集 平成27年7月30日 国土交通省国土政策局
  http://www.mlit.go.jp/common/001099282.pdf

 ▶︎ アベノミクスを個人的に分かりやすく説明すると

 ‘世界も驚く健康長寿社会’を造りあげる一方、‘若者の舞台は世界へ’。

 さて、日本に若者がいなくなったらどうしようか?

 ‘高度な能力を有する外国人の皆さん、いらっしゃい!’

  (‘’内は、アベノミクス方策より引用)

 引用元)改訂!やわらか成長戦略~アベノミクスをもっと身近に~ 2015年5月内閣官房
    http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2014/leaflet_seichosenryaku.pdf

★将来の日本市場

アベノミクスは、将来の日本への道筋を示そうというものである。
それでは、アベノミクスの前提となる将来の日本はどうなるのか?

 ▶︎将来の日本のGDP予測
 2050年のGDP予測が、幾つかの組織から公表されている。
 調査組織により予測内容は異なるが、
 共通していることがある。
 それは、日本が世界で後退していくことと、中国が世界第1位であることである。

 参考)PwC、調査レポート「2050年の世界」を発表し、主要国のGDPを予測‐2020年以降、中国の成長は大幅に鈍化するものの、世界の経済力の新興国へのシフトは止まらず
  http://www.pwc.com/jp/ja/japan-news/2015/world-in-2050-150227.jhtml

また、未来を想像するために、現在のアジア地域の経済構造を説明する次の資料が興味深い参考資料となるかもしれない。

 参考)国土形成計画(全国計画) 参考データ集 平成27年7月30日 国土交通省国土政策局
  http://www.mlit.go.jp/common/001099282.pdf
   ⇒ 20ページ目「アジアにおける中国のプレゼンスの増大」

民主主義の制度は、多数決により国の方向性を決める。

少数派の意見が反映されるように配慮した仕組みがあったとしても、
簡単に言えば多数派が強い制度である。

国際関係を考えても同じことが言えて、
民主主義の選挙とは異なるが、
人口が多ければ、やはり強い国となるのは言うまでもないことと思う。

人が多ければ、需要側としても、供給側としても強者になれる高い可能性を持つであろう。
そして、経済的に見れば、その国の存在が大きな意味を持つようになる。
国の経済、安定を考えるのであれば、人口の多い国は、敬意を持たれることになり、
結果的に、高い存在感と発言権を持つことになるであろう。

民主主義の世界で、弱者の方へと向かいつつある日本国の将来。

2050年には、どのような経済世界がアジア圏には構築されているのであろうか?

■戦後の日本

過去を振り返ってみる。

産業革命以降、一方的な経済圏確立が、戦争の苗床となった歴史がある。
また、それにより、現在も継続して苦しんでいる地域や人々がいる。
このことは、多くの人々の共通認識であると思う。

『世界に広がる市場を如何に自国に都合の良い形に造りあげるか?』

過去の歴史の反省を踏まえると、ただ綺麗なだけの言葉に聞こえるかもしれないが、
特に、持続的な成長が難しいと予測される日本のような国にとっては、
関係を持つ双方の国が共に適度なレベルで都合がよい関係を保持できる経済圏を構築していくことが、
経済社会の安定成長に必須であると思われる。

ある国が経済的な格差で苦しむこと。

それは、安倍首相の言葉を使うのであれば、繁栄を産まない地域に『戦争の苗床』を育てることになるのであろうし、
他の国々は、その紛争の種が育つのを恐れて、軍事力の増強が必要となるかもしれない。

戦争に関わることにより、市場に生産と人の需要を産み出し、
持続的な経済成長が実現されるのかもしれないが、
人が幸せに暮らす世界を目指す道からは逆行した方向になるかもしれない。

今度は、隣国との関係構築について、もう少し概念的に考えてみる。

より深い経済関係を結ぶことになる隣国から、一目置かれた存在になるためには、どうすればよいか?

国の折衝力が必要となるのと同時に、人と人との感情のつながりを持つことが重要であると思う。
生の人間が、そして友達が苦しむ姿や死ぬという感覚は、不幸の道へ進むことへの抑止力へと繋がることが想定されるからである。

人は自分の目の前に具体的な人間を描くことができるのであれば、
特に体裁を重視する人にとっては、安易にその人間の不幸を願うことはしないが、国家レベルの折衝しか想像出来ずに、ただ憎みあうことはよくある。
日本と近隣諸国の関係も、残念ながら、これに近い部分があるのかもしれない。

ここで、戦後の日本の中国、韓国との関係に目を向けてみる。

日本は、中国、韓国といったアジア地域に多くの援助を行ってきた、と自称する一方、
中国・韓国とは、必ずしも感情的に友好な関係を築いているとは言いがたい。

日本としては、『何でここまでやってやっているのにどうしてなんだ?』という嫌悪感が一部にあるように思える。

日本人にとって、認識しておいた方が良い、と思う基本事項がある。

それは、日本は『未来志向』という言葉を使ってはいけない、というよりも使っても意味がない。
『未来志向』という言葉を利用できるのは、中国であり、また韓国である、ということである。

分かりやすい例を挙げて説明すると、
牢屋から出てきた人間がいた場合、彼に対し、

『くよくよ何時までも悩み、苦しんでいないで未来志向で頑張りましょう』

と、声をかけることは、倫理的に人の間で許容されるかもしれない。

但し、刑期を終えた本人が、

『もう終わったことなんだから、未来志向で行こうぜ!』

と、周りに諭すように言ったのであれば、反感を買うのではないであろうか?

日本は戦争に負け、戦犯者が裁判所で裁かれたわけである。

もし、仮に本当は無罪であったとしても、
周りはそうは思っていない、という現実を受け止めて行動するしかないのであろう。
重大な事件の容疑者とされた人間がどのような目にあうのかは、誰もが良く承知していることである。

日本という国が、常に畏まるべきである、ということを言いたい訳ではない。

中国・韓国に対して国が正論を述べて、国益に沿うように主張・折衝していくことは重要であるが、
それだけばかりでは無意味であり、中国・韓国が感情的に、『過去ばかり見ていないで、未来志向で行きましょう』と言い易い環境を作ってあげることが、
日本という国や日本人の果たすべき役目であり、
自国の発展を促すために必要なことであると思う。

ところで、このあたりの人間関係のやり取りは、
私はとても苦手であるが、
日本人は、一般的に、人を持ち上げて自分に都合良い状態を作り出すことに鋭意努力する人が多い気がする。

この能力が、ある場面になると、途端に活用できなくなるように見えて、
私には不思議に思えてしまう。

また、安保法案について、『中国・韓国以外は賛成している』という声を聞くことがある。

統計的にこれが正しいのか誤りなのか知らないが、
他国からみて、これが合憲なのか違憲なのかという視点で見て判断しているわけではないのは明らかであろう。

つまり、本質的に民主主義なのか、法による統治がなされているか、ということは他国にとってはどうでもよいことであり、
自国の国益に見合っているかどうかで判断していることになる。

日本人が国益のために、他国の言葉を利用するのはいいかもしれないが、
賛意を示す他の国が自国の国益に基づき行動しているのと同じように、中国・韓国も自国の国益に見合うように行動しているだけである、
ということを日本人は理解し、無闇に敵意を示すべきではないと思う。

■国策と安保法案の位置づけ

改めて安倍首相に米国での演説を紹介したい。

 『日米間の交渉は、出口がすぐそこに見えています。米国と、日本のリーダーシップで、TPPを一緒に成し遂げましょう。』
 『太平洋から、インド洋にかけての広い海を、自由で、法の支配が貫徹する平和の海にしなければなりません。
  そのためにこそ、日米同盟を強くしなくてはなりません。私達には、その責任があります。』
 『自由世界第一、第二の民主主義大国を結ぶ同盟に、この先とも、新たな理由付けは全く無用です。
  それは常に、法の支配、人権、そして自由を尊ぶ、価値観を共にする結びつきです。』

  引用元)平成27年4月29日 米国連邦議会上下両院合同会議における安倍内閣総理大臣演説
    http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0429enzetsu.html

米国、日本の価値観を、経済の力、軍事力を用いて、アジア地域に押し付け支配していきましょう、
と宣言したと理解できると思う。

もし、仮にアベノミクスが素晴らしい政策であったと評価したとしよう。

その前提が正しかったとしても、アベノミクス/安保法制という国としての一貫性のないように見える方針を、
揺ぎ無く一貫して主張する政府を貴方はどのように評価しますか?

それぞれの官庁は、理屈に沿った正しい判断をしているのかもしれない。

但し、その官庁を統率するはずの政治家は、
明確な国家の指針を持っていなかった、ということに他ならないのではないだろうか?

『戦争法案』

この言葉を用いて安保法案に反対する声があるが、
個人的には、この言葉を持ち出す思考回路がどうしても理解できない。

この法案のみを論じること

- これは、対処療法についての議論である。

病や傷が、これ以上重くなるのを予防する措置をすること、健康を整えること、
つまり、国の方向性について論議することが、
明るくない将来を描いているこの国に対して、今、一番求められていることだと思う。

日本は、少子高齢化先進国である。

繰り返しになるが、これは、世界での日本マーケットの縮小であり、
世界の中で、日本という国の経済的な魅力が大きく減衰していく可能性が大きいこと。
また、国内から外へ発信力の体力が弱まっていくこと、を示している。

そこで、例えばクールジャパンといった日本の魅力を広めていこうという国家的な取り組みがある。

そんな中、世界の嫌われ者かもしれないアメリカとがっちり握手をすることは危険ではないであろうか?
世界で唯一の超大国であり警察という位置を自ら退こうとしているアメリカ。

戦争法案という名前を持ち出すよりも、

・既に国家の戦略として破綻しているのではないか?
・それでは、どのような道を進むべきか
・クールなジャパンをどう売り込めるか?

というような議論が重要であると思う。

また、逆に賛成なのであれば、例えば、次のような議論をすべきであると思う。

・アメリカと仲良くすることのリスク回避策として、他にはどの国との連携を深めていくのか?

私は世界経済や国際交流について、恥ずかしながら、よく分からないので想像でしかないが、
例えば、

『イスラム諸国とのゲートウェイとなり、
また、人口も多く経済的な発展が見込まれるインドネシアとの交流を深めることが、
日本のリスク回避策ではないか?』

・将来、アジア地域でのアメリカの影響力が低下したときの、日本の対応戦略

・国際的な日本への評価/美しい日本と日米同盟の関連性は?

・日本のアジア圏での戦略とアメリカと同調してTPP参加とAIIB不参加を進める意義とリスク

・アメリカが日本に反する政策を展開したときに対応は?
 (アメリカ以外の逃げ道は作ってあるのか?)

私は知識がないため、少ない例しか挙げられていないが、
専門家や勉強中の学生が議論を始めれば、いくらでもこのような議題は出てくるのかと思う。

そうは言っても、選挙は既に終わっており、時すでに遅し、であり、
今となっては、仕方ないので、人の目を引き、興味を引き立てるために、『戦争』や『違憲』という言葉を利用しているだけなのかもしれない。
議論する時間はもう残されていないのだから。

つづく・・・

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