牙を磨く

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しばらく包丁の刃を研いでいなかった。

先日散歩した時、
 『包丁研ぎます』
と書かれた旗を見た。

日にちは5月10日で、今日がその日であった。

包丁を持ち、その場所に着くと、一人の麦わら帽子を被った人が
黒くなった熟練の手を前に後ろにと手を動かしていた。

『暑いから、その日陰で待っていて下さい』

その人は僕の不自由な足を見ると、自分の病気を打ち明ける。
初老の身体に無理をしているのかもしれない。

もともとはカメラ屋を営んでいたそうであるが、このデジカメの時代、商売上がったりであったそうだ。
特に同情を求める訳でもなく、淡々と語るその姿。
知り合いに勧められ、今日はここに座ることにしたとのことである。
本日の売り上げを聞くと、金額を聞くつもりではなかったが、
商売というのはこんなもんだと、具体的な札数を答えてくれた。

『切れるから気をつけなよ』

その人は立ち上がり手を差し出してきた。
また次の機会に会えればと思いながら、僕らは握手を交わし別れた。

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